AIエージェントは「当たり前」になりつつある──ただし使いこなせているかは別の話
2025年はAIエージェント元年だった、という総括は概ね正しいと思う。
McKinseyの2025年調査によれば、回答企業の88%が少なくとも一つの業務機能でAIを定常的に利用している。一方で、全社的にスケールできているのはごく一部で、多くは実験やパイロット段階にとどまっているという。
この数字、体感に近い。AIは確かに身近になった。でも「業務に組み込んで継続的に価値を出している」かというと、多くの人や組織はまだ試行錯誤中だ。「当たり前になり始めた」と「使いこなせている」は、まだイコールではない。
古川俊太さんがZennに書いた記事は、そういう状況の中で「次に何が起きているか」を整理したものだ。技術の話というより、人間の役割と責任がどう変わっているかという話として読むと、実務で感じるもやもやに言葉が付く。
「監視と判断」だけでは足りなくなってきた
一年前、AIエージェントの普及に伴って人間の役割は「手を動かすこと」から「監視と判断」へ移る、という見方があった。AIがコードを書き、文章を作り、調査する。人間はそれを確認して採用するかを決める。そういう構図だ。
ただ、この一年でもう一段進んだ感覚がある。「監視と判断」そのものが仕組み化されてきているからだ。
Martin Fowlerのサイトで紹介されている「ハーネスエンジニアリング」という考え方がある。コーディングエージェントを信頼して使うために、テストや制約、ドキュメント、レビューといったエージェントの周囲の環境を整えるというアプローチだ。
この考え方を踏まえると、人間の仕事は「監視する」「判断する」だけではなくなってくる。AIが安全に作業できる環境を作る、AIが間違えたときにすぐ気づける仕組みを作る、勝手に危ないところまで進まないよう制約を先に置く──そういう設計に、仕事の比重が移っている。
「手を動かす人 → 監視と判断をする人」という変化はあった。次はそこからさらに、「監視と判断が成立する仕組みを作る人」に変わりつつある、ということだ。
責任は消えるのではなく、上流に移る
AIが作業してくれるようになると、人間の責任は軽くなるのか。楽観はできない。
「自分でやったから責任を持つ」という構図がシンプルだったのは、行為と責任が同じ人間に紐づいていたからだ。AIエージェントが作業するようになると、問いの形が変わる。AIに作業を任せたのは誰か。どこまで権限を与えたか。どんな情報を渡したか。失敗したときに止まる仕組みはあったか。
AI事業者側の責任が問われ始めているのも確かだ。Nippon Life Insurance Company of AmericaがOpenAIを訴えた件では、ChatGPTが法的手続きや法的文書の作成に関わったとされ、AIサービスがどこまで法的助言に踏み込んだのかという論点が出ている。訴訟の評価は慎重に見る必要があるが、「AI事業者の責任も具体的に問われ始めた」という事実は重い。
ただ、日々の業務利用で考えると、AIをどう使うかを決めるのは利用者側だ。どの業務に入れるか、どこまで自動化するか、誰が確認するか。「AIが出したから仕方ない」では済まない場面はかなり多い。責任が消えるのではなく、上流に移っている。
AIに仕事を振ることは、人に仕事を振ることに近い
ここが個人的に一番「なるほど」と思ったポイントだ。
人に仕事をお願いするとき、いきなり全部を丸投げはしない。目的を伝え、背景を共有し、やってほしくないことも伝える。最初は様子を見ながら、慣れてきたら任せる範囲を広げる。失敗しても取り返しがつくように、途中で確認する場所を残しておく。
AIにも同じ考え方が必要だという指摘は、妙に腑に落ちる。信頼して任せることと丸投げは違う。裁量を渡すことと、何をしてもよい状態にすることも違う。
そう考えると、AI活用は技術の話であると同時に、かなりマネジメントの話でもある。AIが雑な指示でもそれなりに形にしてくれるからこそ、方向が少しズレたまま走らせると、ズレた方向にかなり速く進んでしまう。ゴールの置き方と制約の設計が、以前より重要になっている。
実務への示唆:AI倫理は「禁止リスト」から「業務設計」へ
AI倫理といえば「個人情報を入れない」「最終判断は人間が行う」といった禁止事項のリストとして受け取られてきた。それは今でも大事だが、AIが業務の中に組み込まれていくと、注意喚起だけでは足りなくなる。
どの業務をAIに渡すか。どの出力を自動実行してよいか。失敗したときどこまで戻せるか。ログを誰が見られるか。こうした設計そのものが、これからのAI倫理になっていく。
Gartnerは、2027年末までにエージェントAIプロジェクトの40%超が中止される可能性があると予測している。理由はコストの増大、事業価値の不明確さ、リスク管理の不足だ。既存のAIアシスタントやRPAをエージェントAIと呼び替えるだけの「エージェントウォッシング」にも触れられている。
これは「AIエージェントが期待外れ」という話ではない。「本当に業務に入れるには技術だけでは足りない」という話だ。業務価値、運用設計、責任分界、リスク管理まで含めて考えないと、PoCで終わる。McKinseyも、AIで成果を出している企業は単なる効率化にとどまらず、ワークフローの再設計や事業変革としてAIを扱っている傾向があると指摘している。
2026年以降は、AIを単発ツールとして使う人と、業務フローに組み込む人と、業務そのものをAI前提で作り直す人の差が、じわじわ広がっていく。どこに自分がいるかを自覚しておくことは、損ではない。
まとめ
「使うか使わないか」の議論はもう終わっている。問いは「どう業務に組み込むか」に移った。
その中で人間の責任は消えるのではなく、上流に移っている。AIが安全に働ける環境をどう作るか。失敗したときに気づいて戻れる設計になっているか。そこを考えることが、これからの責任の取り方だ。
技術の話でもあるが、根っこはマネジメントの話だと思う。