銀行3カ月→AI1カ月。Zehitomoが10万件の入金データで数千万円を引き出した「データドリブン融資」の中身

スタートアップが資金を調達しようとすると、銀行の壁にぶつかる——これは珍しい話ではない。黒字化目前でも融資審査は通らない、審査が進んでも実行まで3カ月はかかる。そういう構造的な詰まりが、長らく当たり前とされてきた。

今回紹介するZehitomoの事例は、その詰まりを「データとAI」で突破した具体的な事例だ。融資審査に使ったのは決算書ではなく、10万件以上の入金データ。かかった期間は1カ月。調達額は数千万円規模。

この話が面白いのは、「AIが審査を速くした」という技術的な話に留まらないからだ。審査に使うデータそのものが変わっている。それが何を意味するのか、少し掘り下げて考えてみたい。


何が起きたか:決算書の代わりに「入金データ10万件」を渡した

ビジネスマッチングプラットフォーム「ゼヒトモ」を運営するZehitomo(東京都品川区)は、黒字化を目前に控えた局面で手元資金の拡充を検討していた。

通常の銀行融資ルートを探る中で、りそな銀行から紹介を受けたのが、フィンテックベンチャーのFivot(東京都港区)が運営する「RFC Venture Debt Fund 1号投資事業有限責任組合」(以下、RFC Venture Debt Fund)だ。これは株式を発行せずに融資型で資金調達できる「ベンチャーデット」の仕組みで、AIによるデータ解析を審査の中核に置いている。

ファイナンシャル・ディレクターの永尾陽平氏が明かした審査プロセスはこうだ。決算書や資金繰り表、商業登記簿謄本といった一般的な書類に加えて、10万件以上の入金データの提出を求められた。ゼヒトモには年間2〜3万件の入金データがあり、決済代行会社のシステムから数年分を抽出して提出した。

「これは金融機関の審査項目にはないデータです」と永尾氏は述べている。RFC Venture Debt FundはこのデータをAIで解析し、入金の発生トレンドや継続性、将来性を評価した。審査開始から融資実行まで、わずか1カ月。やりとりは十数回。「このスピード融資は、銀行ではできない」と永尾氏は言い切っている。


「決算書より入金データ」が通る理由

なぜ入金データが審査軸になるのか。ここが構造的に面白いポイントだ。

従来の銀行融資審査は、財務諸表という「過去の記録」を中心に組み立てられている。直近の決算が赤字であれば、黒字化目前でも審査は通りにくい。担保や経営者個人の信用力も求められる。スタートアップが不利なのは、この評価軸が「過去の実績の積み重ね」に依存しているからだ。

入金データはその点で性質が異なる。過去から現在にかけてのキャッシュフローをリアルタイムで示し、顧客が継続的に支払っているかどうか、収益の再現性があるかどうかを直接示せる。永尾氏の言葉を借りれば「顧客から継続的に得られる収益(リカーリング・レベニュー)やリピート率といった、事業の再現性と成長性を示す『リアルタイムなデータ』が主な審査軸」になったということだ。

もうひとつ見逃せないのが、ビジネスモデルとの相性だ。永尾氏は「大口の顧客に依存するビジネスであれば、審査項目は通常の融資とあまり変わらなかったかもしれない」と分析している。ゼヒトモは15万社の事業者と年間5〜6万人のユーザーという大量の取引データを持つマスビジネスだ。件数が多いからこそ、AIが統計的な信用評価をできる。

つまりこれは、「AIが審査を速くした話」であると同時に、「AIが評価できるデータを大量に持つビジネスモデルが、新しい融資の条件を満たしやすくなった話」でもある。


なぜエクイティだけではなくデットを使うのか

Zehitomoはすでにエクイティ調達の累計が37億円に上る。りそなキャピタルも株主に名を連ねている。それでもデット調達を検討したのには、IPOを視野に入れた株主構成への配慮がある。

永尾氏は2つの理由を挙げている。

ひとつは株式希薄化の問題。一定規模の株主がいる状況でVCから無計画に調達すると、慎重な株主と拡大優先の株主の間で意見が割れる。デット調達であれば、株主構成や議決権比率に影響を与えずに資金を確保できる。

もうひとつはIPO後の株価形成リスクだ。上場時に短期リターンを求めるVCが株主の大半を占めていると、上場後の売り圧力を警戒されて株価形成に悪影響を及ぼすリスクがある。事業シナジーを見込める中長期パートナーとなる株主を探す時間を稼ぎ、短期的な財務リスクを抑える手段としてデット調達を位置づけている。

ここからは見方だが——この構造は、スタートアップのファイナンスが「いかに多く調達するか」から「どんな資本構成を作るか」という質の問題にシフトしていることを示している。IPO準備フェーズに入った企業にとって、デットは単なる資金調達手段ではなく、株主構成を設計するためのツールとして機能し始めている。


今後の論点:「リアルタイムデータ融資」が広がる先で何が起きるか

この種の融資が普及していくと、いくつかの問いが浮かび上がる。

データを持つ企業と持たない企業の格差が生まれる

入金データが審査軸になるということは、そのデータを抽出・提供できる形で持っているかどうかが、融資を受けられる条件のひとつになる。決済代行サービスを使い、トランザクションデータが整っているビジネスは有利だ。一方、BtoBの大口取引中心で請求書払いが主体の事業者は、件数が少ないためこの種の評価軸には乗りにくい。「データドリブン融資」は、使えるビジネスモデルが限られているという前提で理解しておく必要がある。

審査の透明性はまだ課題だ

AIが「信用力や将来性を評価した」と言われても、その評価ロジックが借り手側に十分開示されているかどうかは不明だ。審査が速くなる一方で、「なぜ落ちたのか」「どのデータが評価を下げたのか」が説明されないとしたら、それはある種のブラックボックスだ。金融規制の文脈では、AIによる与信判断の説明責任は今後必ず問われるポイントになる。

次のボトルネックは「データ品質」かもしれない

今回ゼヒトモが提出できたのは、決済代行会社のシステムから抽出できる整ったデータがあったからだ。もしデータが散在していたり、フォーマットが統一されていなかったりすれば、提出自体が難航する。融資審査にAIを活用する流れが広がるほど、自社のデータを「いつでも抽出できる状態」に整備しておくことが、資金調達の準備のひとつになってくる。


実務的な示唆:このニュースから何を持ち帰るか

スタートアップのファイナンス担当者や経営者が今回の話から考えるべきことは、シンプルに3つだと思う。

1. 自社の「入金データの抽出可能性」を確認する
リカーリング型の収益モデルを持ち、決済代行サービスを使っているなら、トランザクションデータを整形して提出できる状態かどうかを確認しておく価値がある。銀行融資の代替ルートとして、選択肢に入れておけるかどうかが変わってくる。

2. デットを「なくなる前に調達する」発想で使う
永尾氏は「手元資金があることで次の動きが全く違ってくる」と言っている。デットは、資金が切迫してから慌てて探すものではなく、余裕があるうちに組み込むものだ。審査が1カ月で済むとはいえ、準備は前倒しで動いておく方がいい。

3. 株主構成の設計とセットで考える
エクイティのみで資金調達を続けると、IPO前後の株主構成が経営の足かせになるリスクがある。デットを混ぜることで希薄化を抑えながら株主の質を維持するという発想は、IPOを視野に入れた段階で早めに持っておいた方がいい。


AIが融資審査に使われるという話は、これまで主に「審査が効率化される」という文脈で語られてきた。しかし実際に現場で何が起きているかを見ると、効率化よりも「審査の対象となるデータが変わった」という変化の方が大きい。

決算書は過去を語る。入金データはいまを語る。この違いが、従来の銀行審査では評価されにくかったスタートアップの「実態としての信用力」を可視化する。その意味で、今回の事例はAI審査の技術的な進化ではなく、融資の評価軸の転換として読んだ方が正確だ。

参考元: 銀行なら3カ月→AIは1カ月 10万件のデータで「数千万円」を引き出した"データドリブン資金調達術"(ITmedia ビジネスオンライン)