国産AI「成功組」の共通点はNVIDIAだった――NTT・ソフトバンク・Sakana AIに見る勝ち筋の構造

「国産AIを育てる」という掛け声は2023年ごろから続いているが、実際に商業化・実用化に近づいている企業はごく一部だ。ITmediaが7月21日に報じた記事によると、その「成功組」に共通していたのは意外なほどシンプルな事実だった。NTTデータ、SB Intuitions(ソフトバンク子会社)、Sakana AI、東京科学大学、Stockmark――これらがそろって、米NVIDIAの技術セット「NVIDIA Nemotron(ネモトロン)」を活用していた。

「成功した国産AI」には共通の土台があった

まず前提として確認しておきたいのは、NVIDIAに対する認識のアップデートだ。「AI向けGPUを作っている半導体メーカー」という理解は、もはや実態の半分しか捉えていない。

NVIDIAが提供しているのは、AIの開発・運用・インフラ整備をまるごと包むエコシステムだ。専用インフラ「NVIDIA AI Factory」、運用に必要な要素を統合した「NVIDIA AI Enterprise」、そして今回の主役であるNVIDIA Nemotron――オープンモデル、データセット、ライブラリ群をセットにした技術パッケージである。

つまり、「NVIDIAのGPUで学習した」という話ではなく、「NVIDIAのエコシステムの上でモデルを育てた」という話だ。この違いは小さいようで、開発戦略の根本に関わる。

各社は何をどう使ったのか

具体的に整理しておこう。各社の活用方法はそれぞれ異なる。

SB Intuitionsは、「Sarashina」シリーズの学習に際して、事後学習用ライブラリ「NVIDIA NeMo RL」と、大規模モデルの高速学習を支える「Megatron-LMライブラリ」を中心に活用した。加えて、SarashinaとNVIDIA Nemotronを組み合わせ、通信ネットワークの自律運用を目指す「Large Telecom Model(LTM)」も開発している。通信インフラ事業者が「業界特化AI」を作りに行った形だ。

NTTデータは、日本の人口統計や文化的背景を反映した「NVIDIA Nemotron-Personas-Japan」というデータセットを使い、基盤モデル「tsuzumi 2」の学習データを拡張した。日本語の文脈や文化的ニュアンスを扱う精度向上につなげたという。さらに「NVIDIA Agent Toolkit」を活用して、マルチエージェントシステムの展開も検討中だ。

Sakana AIは、アプローチ自体がユニークだ。大手テックが「巨大モデルを作る」戦略を採る中、同社は「小さなAIモデルを組み合わせる」という逆張りを選んだ。そのマルチエージェントシステム「Sakana Fugu」にNVIDIA Nemotronを統合し、各タスクに最適なモデルを選択できるようにした。創業は2023年で、約1年で時価総額10億ドルを超えるユニコーン企業に成長している。

東京科学大学は、日本語処理に特化したオープン基盤モデル「Swallow」シリーズの事前学習・事後学習の両方に、Nemotronのデータセットを使用した。Stockmarkは、NVIDIAのオープンモデル「NVIDIA Nemotron 3 Nano Omni」をベースに、日本語ビジネス文書の読解・構造化に特化した視覚言語モデル「Stockmark-Nemotron-3-Nano-Omni-JapanDocReader」を開発した。2016年創業のStockmarkは、経済産業省の基盤モデル開発支援事業「GENIAC」に採択されているスタートアップだ。

領域も規模も創業時期もバラバラな5つの主体が、同じ技術基盤を使って成果を出している。

なぜ「共通点がNVIDIA」という事実が重要なのか

ここからは構造の話をしたい。

AI開発には、大まかに言って「ゼロから基盤を作る」「既存の土台の上でカスタマイズする」という二つの選択肢がある。前者は自由度が高いが、コストと時間が膨大にかかる。後者は速いが、依存が生まれる。

今回の事例が示しているのは、少なくとも「日本語・業界特化型のAIを作る」という文脈においては、後者の戦略が有効だということだ。NVIDIAがオープンモデルやデータセットを公開し、それを各社がカスタマイズして自社の強みを載せる。スクラッチ開発に膨大なリソースを割かず、差別化すべき部分――業界知識、日本語データ、エージェント設計――に集中できる。

NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「各国が自国のAIインフラを所有し、管理する必要がある」と述べ、オープンモデルを活用することでAIの「検証・改善・導入が容易になる」と説明している。この発言は単なる営業トークではなく、エコシステムとしての戦略を明示したものだと読む方が正確だ。NVIDIAは半導体を売りながら、同時に「NVIDIAの上で作った方が速くて安い」という生態系を整備している。

日本企業にとってのインセンティブと、NVIDIAのビジネス戦略が、今のところうまく噛み合っている状態だ。

実務に落としたとき、何が見えるか

企業のAI担当者やプロダクト責任者に向けて、実務的な示唆を一つ言っておくと、「誰が作ったか」より「何の上に作ったか」を問う習慣が必要だと思う。

国産AIモデルが次々と登場している現在、各社の発表を見ると「独自開発」という言葉が踊ることが多い。だが今回の事例が示すように、実態は「共通の技術基盤の上に、自社固有の工夫を載せている」ケースが多い。これ自体は悪いことではない。むしろ賢い選択だ。

問題は、受け取る側が「独自開発=ゼロから作った」と誤読し、実際には何がオリジナルで何がベースになっているかを確認しないまま評価してしまうことだ。ベースとなる技術とカスタマイズ部分の分離を意識して情報を読む癖をつけておくと、同種のニュースが出たときに判断が速くなる。

また、AI開発を外部委託したり、ツール選定をしたりする立場の人は、「そのサービスはどのモデル・どのインフラの上で動いているか」を確認する習慣を持ちたい。コスト構造や将来的なバージョンアップの見通しが、その一点でかなり変わってくる。

次の論点:この構造はいつまで続くか

懸念点も素直に言っておく。

今回の「共通点」は、見方を変えると「国産AI開発がNVIDIAのエコシステムに依存している」という構造でもある。NVIDIAがオープンモデルやデータセットの方針を変えたとき、あるいはライセンス条件が変わったとき、この上に構築した各社のモデルはどうなるか。そのリスクをどう見積もっているか、外部からはまだよく見えない。

政府の「AI基本計画(2025年)」は「AIエコシステム全体を日本国内で構築する」と明言しており、2026年改訂版では「フィジカルAIと領域特化型AIによるAX(AIトランスフォーメーション)」が「勝ち筋」と位置づけられた。この方向性と、NVIDIAのエコシステムへの依存がどう整合するのか、あるいはしないのか。政府主導の国産化と、グローバル企業の技術基盤の上に乗る戦略の間の緊張感は、今後より明確になってくるはずだ。

もう一つ、コストの問題がある。NVIDIAのGPUとソフトウェアスタックは高価だ。今は「成功した企業の事例」として語られているが、中小規模の事業者や研究機関が同じアプローチを取るときのコストが現実的かどうかは、別途検証が必要だ。「使えることが証明された」と「誰でも使えるようになった」は違う。

まとめ

国産AI「成功組」の共通項がNVIDIAの技術セットだったという事実は、「日本がAIで勝てた」という話でも「NVIDIAに頼り切り」という話でもなく、その両方の側面を持っている。重要なのは、どの技術の上に何を積み上げたかを冷静に分析する視点だ。

今後、同種の「○○企業がAIモデルを開発」というニュースを見るたびに、ベース技術は何か、カスタマイズの独自性はどこにあるか、依存リスクをどう設計しているか――この三点を確認する習慣が、実務判断の精度を上げていく。


参考元: NTT、ソフトバンク、サカナAI――国産AI開発「成功組」の"ある共通点"(ITmedia ビジネスオンライン)