NECが「人月商売」に見切りをつける理由——45兆円市場と、変わる人材の条件

NECの森田隆之社長が、ビジネスモデルの転換についてかなり具体的な数字とともに語った。2025年度に営業利益率10.8%を達成し、2期連続で最高益を更新した直後のインタビューだ。業績発表の場でよくある「さらなる成長を目指す」といった定型句ではなく、「今のビジネスの稼ぎ方が変わる」という話を正面からしている点が、今回の記事で注目すべきところだ。


何が変わるのか——「45兆円市場」の中身を読む

森田社長が繰り返し強調しているのは、AIの進化によって「システム構築の価値が下がる」という認識だ。NECの2030中期経営計画では、グローバルのAIサービス市場が新たに45兆円超の規模になると予測する一方で、従来型の人月商売やSIerとしての稼ぎ方は「変革を迫られている」と明言している。

ここで重要なのは、市場が縮小するという話ではないことだ。むしろ市場全体は拡大する。ただし、どこに価値があるか——つまり誰がその45兆円を取りに行けるか——が変わる。価値の重心が、コンサルティングとオペレーションに移っていく、というのが森田社長の見立てだ。

具体的な事例として挙げられているのが、レガシーシステムの刷新だ。「綺麗なスライドで抽象的な説明をするだけでは不十分」という発言が象徴的で、システムの構造を熟知した人材がAIを駆使し、具体的な再構築案やコードをその場で提示していく、というアプローチを求めている。プロジェクトの初期段階から「仕組みそのものを組み立てる役割」が求められる、という表現はなかなか鋭い。これはコンサルタントでも純粋な開発者でもない、第三の職種を示唆している。


BluStellarの収益構造——「10%→50%」という宣言の重さ

森田社長が今回もっとも具体的に踏み込んだのが、BluStellar事業の収益モデルの話だ。

現時点で、リカーリング型(継続課金型)のサービスモデルは売上の約10%。それを2030年度には50%にする、というのが社長自身のイメージだという。さらに、3割は成果ベース——顧客での価値創出をベースにした収益モデルを目指すとしている。

数字だけ見ると「大きな目標だな」で終わりがちだが、これは構造的にかなり難しい転換だ。理由は顧客側にある。森田社長自身が「成果報酬型だけで対価をもらうのは難しい」「顧客側で予算の取り方を変える必要があるため、抵抗はあるはず」と正直に認めている。

だから現実的な落としどころは「ベース部分のサービスと成果部分をミックスした形」になるという。これは誠実な見通しだが、裏を返せば、2030年に50%を達成できるかどうかは、NECの営業力だけでなく、顧客企業の調達・予算文化の変化にもかかってくる、ということだ。


「組織の壁を壊す」——これまでの分断構造を振り返る

今回の発言で特に興味深かったのは、組織論の話だ。

これまでのSIer的な組織は、コンサルティング部門・システム構築部門・運用部門が分かれていた。それぞれの専門性は高くなるが、顧客への提案から運用まで一気通貫で関わることが構造的に難しかった。

森田社長はこの分断を問題視しており、「システム構築を担う人材の強みを生かしながらAIを使い、競争力を上げていく」と述べている。さらに、そうしたアプローチの実践を通じて「これまで分断されていた組織の枠を越え、人材の流動化や活発な交流が自然と生まれてくる」と言う。

「自然と生まれる」というのは、少々楽観的な表現に聞こえる。実際には、評価制度・配置・キャリアパス・部門間の利害調整といった地味で泥臭い変革が伴わなければ、流動化は起きない。ただ、その「自然に」というビジョンを示すことで、採用メッセージや社内文化の方向性を打ち出している、という読み方もできる。


ここからは見方だが——構造的に何が起きているか

この記事を読んで感じるのは、NECが直面している問題は、実はNEC固有の話ではない、ということだ。

日本の大手SIer全般が、AIの進化によって「工数を積み上げて請求する」モデルの正当性を問われつつある。システムの一部をAIが代替できるようになれば、「人が何時間かけたか」を根拠にした価格設定は説明しにくくなる。顧客もそれに気づき始めている。

森田社長が「ただ待っていれば自然とそこに到達できるかというと、それは全く違う」と述べているのは、この問いへの自覚を示している。市場は広がるかもしれないが、今のポジションで待っていれば取り残される、という危機感は率直だ。

一方で、成果報酬モデルへの移行が「顧客の予算文化の変化が必要」という話は、実は日本のIT調達の根深い問題を指している。日本企業の多くは、システム発注を「物の購入」ととらえており、「成果に応じて払う」という感覚になじんでいない。これはNECが単独で解決できる問題ではなく、産業全体のゆっくりとした変化を待つしかない部分もある。

だとすれば、2030年に「リカーリング50%・成果ベース30%」という目標は、戦略的な北極星として機能しているが、実現確度については保守的に見ておく必要がある。


実務的な示唆——誰が何を考えるべきか

エンジニア・開発者の視点から見ると、求められるスキルセットの変化は明確だ。「コードを書けること」はもはや差別化にならず、「AIを使ってシステムの構造を理解し、初期段階から顧客に具体案を提示できること」が次の基準になる。コンサル的なコミュニケーション能力と、深い技術理解の両立が求められる。これは一朝一夕には身につかないが、逆に言えば、そこに投資している人材は相対的に希少になっていく。

発注側の企業(ユーザー企業)の視点からは、今後の契約形態の変化に備える必要がある。「人月でいくら」という慣れ親しんだ調達方法が徐々に通用しなくなる局面が来る。成果指標の設定、ベンダーとの共同責任の範囲、予算計上の方法——これらを社内の調達・法務・財務と一緒に整理しておかないと、移行期に混乱する。

次の論点として見ておくべきは、成果報酬モデルにおける「成果の計測・定義」の問題だ。「顧客での価値創出をベースにした収益モデル」と言葉にするのは簡単だが、「価値」をどう数値化し、誰が測定し、どう合意するかは、法的にも実務的にも複雑だ。ここが整備されない限り、成果報酬モデルの普及には上限がある。NECが今後、この契約設計をどう標準化していくか——そこが次に見るべきポイントになる。


まとめにかえて

森田社長のインタビューは、「AIで何ができるか」ではなく「AIによって何が変わるか」を経営者目線で語ったものだ。45兆円という市場予測の数字よりも、「10%のリカーリング収益を2030年に50%にする」という内部目標の方が、変革の本気度を示している。

ただし、こうした転換は「宣言した瞬間に実現する」ものではない。顧客の調達文化、社内の評価制度、エンジニアの育成スピード——いずれも時間のかかる変数だ。NECの次の決算や中計の進捗レポートで、リカーリング比率がどう動いているかを確認するのが、この話を追いかける上での一番のチェックポイントになるだろう。


参考元: NEC森田社長が語る「脱・人月商売」の行方 組織の壁を破るAI人材育成法(ITmedia ビジネスオンライン)