Unitreeが語った「次の巨大市場」とは何か

2026年5月、東京・高輪で開催された「Humanoids Summit Tokyo 2026」でUnitree RoboticsのAPEC Director、Xiaoli Chen氏が登壇した。講演タイトルは「Unitree Robotics: Scaling Agile and Intelligent Robots」。内容を一言で言えば、「Unitreeはもはやハードウェア企業ではない」という宣言だった。

Chen氏は冒頭でこう語った。「1990年代はパソコン、2000年代はスマートフォン、2010年代はEVの時代だった。2020年代はインテリジェントロボティクスの時代になる。」

よく聞くフレーミングではある。ただ今回、このセリフを「資金調達の48%をAIに割く」という具体的な行動と一緒に語ったのが重要な点だ。


数字で見る今回の発表の核心

今回の講演でもっとも実質的だったのは、資金配分の話だ。Unitreeはスライドで、総額4.2B(単位は42億元相当と想定)の調達資金のうち、48.1%を「AI & Embodied Intelligence」に優先配分する方針を示した。

これは単なる優先順位の話ではない。「ロボットを作る」から「ロボットの脳を作る」への転換、とスライド自体に明記されている。ハードウェア製造より知能開発に先に金を使う、という意思表示だ。

研究エコシステムの数字も出ている。四足ロボット関連論文440本以上、ヒューマノイド関連論文約300本、世界200以上の研究機関がUnitree関連の研究に関わっているという。さらにテレオペレーションデータセットやVision-Language-Action(VLA)モデルも公開済みだ。

この規模のオープンソース戦略を持っているロボット企業は多くない。少なくとも「数字をきちんと出せる段階まで来ている」という意味で、他の競合との差は意識しておいていい。


エンボディードAIはまだ「Pre-GPT Era」——何がそれを示しているか

Chen氏は現在のエンボディードAIについて「ChatGPT登場前の生成AIと同じ段階」と位置付けた。この表現はかなり正直な自己評価だと思う。

彼が指摘したのは、LLMが「身体から切り離された知能」だという構造的な問題だ。人間の知能は脳と身体の相互作用の中で進化してきた。一方、現在のLLMは現実世界との接点を持たないまま学習している。ヒューマノイドロボットこそがAIを物理世界に接続する媒体になる、という考え方がエンボディードAIの根底にある。

同時にChen氏は業界の課題についても率直だった。現状の問題点として挙げたのは3つ。「注目を集めるデモと実際の生産性のギャップ」「PoC止まりで量産導入が進まないこと」「長時間にわたる複雑作業が難しいこと」。自社が春節ガラで披露したカンフーパフォーマンスや大規模群制御デモについても、「技術力は示せるが、最終的に評価されるのは現場での作業完遂だ」と添えている。

派手なデモを自ら相対化してみせるのは珍しい。ここにはある種の自信も読める——「だからこそ自分たちはAIとデータに先行投資している」という文脈だ。


ここからは見方だが——この発表をどう読むか

Unitreeのこれまでのイメージは「安くて動けるロボットを量産できる中国メーカー」だった。四足歩行のGo1シリーズで世界的な知名度を得て、2024年にヒューマノイドG1を発売、2025年にはR1・H2と続けた。ハードウェアのコスト競争力は本物だ。

ただ今回の講演が示しているのは、そこに留まる気がない、ということだ。

Chen氏の言葉を借りれば「データは燃料、モデルはエンジン」。そしてこのエンジンを動かすためのデータは、実際にロボットが現場で動くことで生まれる。より多くのデータがより優れたモデルを生み、より優れたロボットがさらに多くのデータを生み出す——このフライホイールを回し始めた企業が、ロボット業界のプラットフォームになる。

このフレーミング、どこかで聞いたことがある。スマートフォン時代にGoogleやAppleがアプリエコシステムで取った戦略に近い。Unitreeが目指しているのは、ヒューマノイドを「端末」として捉え、その上でエコシステムを動かすプラットフォーム企業のポジションだ、と読んだ方が実態に近い気がする。

もちろん、今がその段階に達しているかは別の話だ。自社を「Pre-GPT Era」と言っている以上、GPTモーメントはまだ来ていない。ただ、「来る前提で資金とエコシステムを積み上げている企業」と「まだデモを見せている企業」では、2〜3年後の位置がかなり変わってくる。


実務的な論点——次に何が問われるか

Chen氏はロボット普及の5段階ピラミッドを示した。鉱山・災害対応・原子力施設などの危険環境から始まり、過酷な産業現場、物流・工場、商業施設、最後に家庭へと広がる、という順序だ。「若い世代は危険で過酷な仕事を望まなくなっている。ロボットはそうした現場から普及していく」という説明とセットになっている。

このピラミッドは現実に即していると思うが、実務目線でいくつか問いを立てておきたい。

まず「量産導入フェーズへの移行条件は何か」。Unitreeは2025〜2026年を実証導入フェーズ、2027〜2030年を本格商業化フェーズと位置付けている。PoC止まりを課題として挙げた以上、次の1年で「量産に至った事例」を何件出せるかが、この戦略の信頼性を左右する。

次に「オープンソース戦略の持続性」。VLAモデルやデータセットの公開は研究コミュニティには喜ばれる。一方で、これはデータとモデルの品質で競争優位を作る戦略とも相性が悪い局面が来る。どこまでオープンにして、どこからクローズにするかの線引きは、まだ見えていない。

そして「エッジコンピューティングのコスト」。Chen氏が2〜5年の重要テーマとして挙げた3つのうちのひとつが「Edge Compute Decentralization(エッジコンピューティングの分散化)」だ。クラウド依存から脱却してロボット単体で判断できるようになるには、推論チップのコストダウンが不可欠だ。ここが進まなければ、どれだけ優れたモデルを作っても現場に出せない。

ロボティクス関連のニュースを読む際には、「デモの完成度」より「量産実績」と「エッジ推論コスト」を見るのが次の軸になってくる。


まとめに代えて

Unitreeの今回の発表を一言で整理するなら、「ハードウェア企業として認知されてきた自分たちが、実はAIプラットフォームを志向していると明確に表明した」という回だった。

エンボディードAIがPre-GPT Eraだという認識は、誇張でも謙遜でもなく、現状の正直な評価だと思う。だからこそ「その転換点が来る前に、データとモデルとエコシステムを揃えておく」という戦略に資金を先行投資している。

ロボット版GPTモーメントが2〜5年で来るかどうか、断言できる人間はいない。ただ「その予測が正しかったとき、誰が一番有利な位置にいるか」という問いへの答えは、今回の講演でかなり具体的に語られていた。


参考元: Unitreeが描く これからのヒューマノイド戦略「身体能力からエンボディードAIへ」量産とオープンソースで成長を加速 | Robot Start