AIは「7」しか言えない——LLMの集団思考問題と、それを壊そうとするスタートアップの挑戦

今すぐ試してほしい実験がある。

使い慣れたチャットボット——Claude、ChatGPT、Gemini、どれでもいい——を開いて、「1から10の間でランダムな数字を教えて」と入力してみてほしい。おそらく「7」が返ってくる。「もう一つ」と打てば3か4、「さらにもう一つ」と打てば8か9。

当たるはずだ。これは予言でも超能力でもない。単純に、ほとんどのLLMが驚くほど予測可能な答えを返すという話だ。


「7」「トヨタ」「Run your way.」——AIは全員同じ答えを返す

オーストラリアのスタートアップ、スプリングボーズのCEO、ピップ・ビンゲマンは、このランダム数字ゲームを営業デモとして使っている。「毎回うまくいきます」と彼は語る。

ビンゲマンがChatGPTとClaudeに「1から10のランダムな数字を」と尋ねると、両者とも「7」を返した。続けて自社のAI「Flint」に同じ質問を投げると、最初は同じく「7」が出た。セッションをリセットして再度試すと——FlintだけはAppleが「3.7916」と答えた。

数字の話だけではない。「車の種類を一つ」と聞けば、ChatGPTもClaudeも「トヨタ」か「ホンダ」を返す。Flintの答えは「フォードF-150」だった。極めつきは、ニューバランスのランニングシューズのキャンペーン用タグラインを一行だけ考えてほしいというプロンプト。Claudeの答えは「Run your way.」、ChatGPTもまったく同じ「Run your way.」を返した。Flintは「Built to last, run to win.」と答えた。受賞レベルのコピーとは言えないが、少なくとも違う発想ではある。


なぜLLMは均質化するのか

この現象は偶然ではない。訓練データの類似性と、RLHFをはじめとする最適化手法の共通性が、モデルの回答を特定の「安全地帯」へと収束させる。

2024年11月には、この問題を正面から取り上げた研究論文「Artificial Hivemind: The Open-Ended Homogeneity of Language Models (and Beyond)」が発表されている。この論文が指摘したのは単一モデル内の偏りではなく、異なるモデル同士でもオープンエンドな質問に対してほぼ同じ答えへ収束するという事実だ。AI業界全体が「人工ハイブマインド」とも呼べる状態になりつつある。

ビンゲマンの言葉を借りれば、「これらのモデルには、表に出てこない情報がたくさんある。ビュイックやテスラと答える能力は十分にあるのに、そうしない。特定の答えに偏っている」のだ。

コーディングのデバッグ、情報収集、文書の要約——こういった用途では均質化はほぼ問題にならない。むしろ「正解に収束する」ことが求められる。しかし、ブレインストーミング、旅行先の提案、広告コピーの発散、企画の壁打ち——発想の幅が求められる場面では、この均質化が致命的なボトルネックになる。


スプリングボーズが何をしているか

スプリングボーズが開発したFlintは、Qwen3をベースに独自の追加学習を施したモデルだ。彼らのアプローチの核心は、「多様性が必要な箇所にのみ意外性を挿入する」という設計にある。

注目すべきはCEOの言葉だ。「ほとんどの言語モデルはハルシネーションと戦っています。私たちはそれを歓迎しています」。

これは逆張りの設計思想だ。主流のAI開発が「幻覚をなくす」「事実に忠実にする」という方向で最適化を重ねてきたのに対し、スプリングボーズはあえて「予測可能性を壊す」ことに価値を置いている。ハルシネーションそのものを目的にしているわけではなく、「意外性のある合理的な回答」を生成できる領域を意図的に広げようとしている。


ここからは見方だが——構造として何が起きているか

この話を「変わったスタートアップのデモ」として読むだけではもったいない。もう少し大きな構造で捉えると、面白いことが見えてくる。

LLMの均質化は「バグ」ではなく、最適化の副作用だ。人間のフィードバックで強化されたモデルは、人間が「良い」と評価しやすい答えを学習する。そして「良い」と評価されやすい答えは、当然ながら多数派の期待に近い。7が「良い」と感じられるのは、人間が「ランダムな数字」として7を連想しやすいからだ。これはモデルの問題ではなく、訓練データと評価システムの設計に内在する力学だ。

だとすれば、この問題を「直す」よりも「使い分ける」という発想の方が現実的かもしれない。汎用モデルは収束が得意で、創造性特化モデルは発散が得意——そういう市場分化が進む予兆として、Flintのような試みを見ることができる。GPTやClaudeが「賢い優等生」なら、Flintは「ちょっと変わった発想をする同僚」というポジショニングだ。

ただし、ここには一つ重要な問いが残る。「均質化した答え」と「多様化した答え」のどちらが「良い」のかは、用途によって完全に変わる。多様性の高さ自体がKPIになり得るのは、あくまでも発散フェーズに限った話だ。


実務者が今すぐ考えるべきこと

プロダクトマネージャーや企画担当者がAIをブレインストーミングに使っているなら、一つ認識を改めた方がいい。複数のLLMに同じ質問を投げても、実質的には一つのモデルに聞いているのと大差ない可能性がある。論文が指摘しているのはまさにそこだ。

現実的な対処としてすぐに使えるのは、「プロンプトで意図的に制約を外す」アプローチだ。「マイナーなものを挙げて」「誰も思いつかないような選択肢を」「最初に浮かんだものとは逆の発想で」という修飾を加えることで、ある程度は収束を崩せる。完全な解決策ではないが、コストゼロで今日から使える。

Flintのような多様性特化モデルが今後増えていった場合、実務的な判断軸は一つだ。「ユニークな答えが出る」だけでなく、「ユニークかつ有用な答えが出る」かどうか。「Built to last, run to win.」はRunning your way.と違う答えではあるが、それが広告キャンペーンとして優れているかどうかは別の評価が必要だ。


今後の論点:多様性の品質をどう測るか

最後に、この取り組みが本質的に難しい理由を整理しておきたい。

「違う答えが出る」ことと「良い答えが出る」ことは、まったく別の問題だ。ランダム性を高めれば多様性は上がるが、それは品質の保証ではない。創造的発散の「良し悪し」を評価する基準はまだ確立されていない。コーディングのベンチマークは豊富にあるが、「ブレインストーミングの質」を測る標準的な指標は存在しない。

元記事でも専門家から「創造的発散が有効な場面は限定的」「AIへの過度な依存自体への警戒」という声が紹介されている。発散の多様性を追うあまり、AIが担うべき役割と人間が担うべき役割の境界線が曖昧になるリスクは、開発側も利用側も意識しておく必要がある。

Springboardsの試みが面白いのは、主流の最適化方向に真っ向から逆らっているからだ。それが市場で評価されるかどうかは、「多様性に価値を置くユーザー層がどれだけ存在するか」にかかっている。

LLMが全員「7」と答える世界で、「3.7916」と答えるモデルに価値があるかどうか——それを決めるのは、最終的にはユーザーの用途と目的だ。


参考元: 驚くほど似通うAIの答え、「集団思考」の打破に挑むスタートアップ|MITテクノロジーレビュー