ソフトバンクGの投資利益1.8兆円、立役者がIntelだった件をどう読むか

「OpenAIでも、Armでもない」——数字が語る意外な主役

2027年3月期第1四半期(4〜6月)、ソフトバンクグループの投資利益は1兆8594億円に達した。前年同期の4869億円から約3.8倍。この数字だけ見ると、OpenAIへの大型出資が効いたか、あるいはArm Holdingsの株価上昇が貢献したのかと思うのが自然だ。

ところが実際の内訳は違う。投資利益のうち1兆3329億円、つまり7割超を占めたのは米Intelの公正価値の上昇だ。ソフトバンクGが2025年8月にIntelの株式を20億ドル分取得していたことは当時も報じられたが、その後の3ヶ月でこれだけ動いたことは、後藤芳光CFO自身が「ポジティブサプライズ」と表現したほどだ。

「大きな要因は、実はなんとIntelだ。2025年、米国における半導体事業も注目すべきテーマとして投資した結果、直近3カ月で非常に大きく伸びた」——後藤CFOのこの言葉は、ある意味正直だ。事前に確信していたというより、市場の追い風に乗ったという認識を隠していない。


事実を整理する:何が起きたか

決算の数字をまず並べておく。

  • 純利益:3473億円(前年同期比17.7%減)
  • NAV(時価純資産):6月末時点で72兆3000億円(過去最大)
  • 投資利益:1兆8594億円(前年同期比約3.8倍)
  • Intel分の貢献:1兆3329億円
  • Arm Holdingsの売上高:12億8900万ドル(Q1として過去最高)
  • OpenAI追加出資:2026年度に200億ドルを出資済み、10月までにさらに100億ドルを追加予定

なお、純利益が前年比で減っていることは見落とさないほうがいい。投資利益は急拡大しているが、純利益ベースでは減益だ。株式市場の変動がNAVにも直撃しており、8月5日時点のNAVは約58兆円まで落ち込んでいる。6月末からわずか1ヶ月あまりで14兆円以上が吹き飛んだ計算になる。投資利益の数字は力強いが、その土台がいかに市場の動きに左右されやすいかも同時に示している。


構造として何が見えるか:「AI関連」という括りの広がり

ここからは見方の話をする。

今回の決算で面白いのは、「AIで儲かった」という話でありながら、主役がOpenAIでもArmでもなくIntelだった点だ。これは単なる誤算ではなく、ソフトバンクGの投資戦略が何を射程に入れているかを示している。

後藤CFOは「4〜6月に半導体銘柄の株価が急騰した。Intelもその一つ」と述べた。この「AIではなく、AIインフラを支える半導体市場全体」に投資するという発想は、OpenAI一点張りとは異なるポジションだ。

Intelはここ数年、経営の苦境が広く報じられてきた。ファウンドリ事業の遅延、TSMCとの差の拡大、GPUでNvidiaに出遅れた歴史——。にもかかわらず、AIによるデータセンター需要の爆発が「半導体銘柄全体」を引き上げる局面になると、Intel株にも波及した。これは市場が「AI=特定企業」から「AI=産業インフラ」として価格を付け始めていることの現れでもある。

Arm Holdingsの動きも同じ文脈で読める。売上高12億8900万ドルは過去最高で、データセンター向けCPUの累計出荷数が6月末で15億個を超えた。Armの設計が組み込まれたAWS GravitonやApple Silicon、そしてデータセンター向けチップへの採用拡大が実数として出てきている。ソフトバンクGが保有するArmは、AIブームを「半導体設計のロイヤリティ」として収益化できる数少ない企業の一つだ。

つまり今のソフトバンクGの投資ポートフォリオは、「AIソフトウェア(OpenAI)」「AI半導体設計(Arm)」「AI関連半導体製造(Intel)」「AIデータセンターインフラ(Stargate Project等)」という構造になっている。どれかが外れても別の軸で補えるよう分散している——少なくとも設計上は。


実務的な視点:「ポジティブサプライズ」が示す現実

後藤CFOが「ポジティブサプライズ」と言ったことを、私は額面通りに受け取っている。

これは謙遜ではなく、投資の現実だ。20億ドルを投じてIntelの株式を取得した時点では、「ここまで短期間で動く」という確信があったわけではないはずだ。半導体市場全体の回復に賭けたという判断は正しかったが、その回収速度は想定外だったということだろう。

経営者や投資担当者がこのニュースから取り出すべき視点はここにある。「ソフトバンクはIntelで儲かった」という事実よりも、「AI関連銘柄の定義が広がっている」という市場の変化の方が重要だ。

AI関連銘柄と言えば、これまではNvidia、Microsoft、Google、OpenAI関連企業を指すことが多かった。しかし今は、電力・冷却設備・半導体材料・HBMメモリ・光ファイバーまで含む裾野全体に「AIインフラ投資」の資金が流れ込んでいる。Intelの株価急騰はその一局面だ。

自社のAI戦略をどう考えるにせよ、「AIで勝つのは直接的なAIソフト企業だけ」という仮定は今や古い。どのレイヤーに資金・人材・パートナーシップを投じるかという問いが、経営判断の幅を広げている。


今後の論点:「供給が圧倒的に不足」という診断の根拠と限界

決算会見で後藤CFOが強調したのがデータセンターの話だ。

ソフトバンクGはAIデータセンター開発計画「Stargate Project」に着手しており、さらに450億ユーロを投じて欧州最大規模のAIデータセンターをフランスに建設することも発表している。「この動きに火を点けたのは、われわれの『Stargate Project』かもしれない」という後藤CFOの言葉は笑いを誘ったようだが、冗談でもない。

「データセンター投資が過剰ではないか」という市場の問いかけに対して、後藤CFOの答えは明快だった。「明確な需要に対して、供給が圧倒的に不足しているのは間違いない」。

この診断は正しい可能性が高い。ただ、留保が一つある。「今の需要曲線が今後も続く」という前提が成立するかどうかだ。LLMの計算コストが急速に下がり、推論に必要なGPUの数が半減するシナリオが現実になれば、データセンターの需給バランスは変わりうる。後藤CFOの見立ては「現在のAIの進化方向が計算資源を際限なく要求し続ける」という前提に立っているが、これは必ずしも保証されていない。

もう一点、「計算資源が確保できないとAI技術の成長スピードが鈍化する」という論点はその通りだが、電力という別の制約も浮上している。データセンターは電力を大量に消費し、大規模な新設計画は電力グリッドの確保を前提とする。ソフトバンクGの孫正義氏が東京電力への出資に意欲を示したのも、この文脈で読めば偶然ではない。

次にデータセンター関連のニュースを見るとき、「何テラワット時の電力を確保しているか」「電力会社との長期契約があるか」という軸を持っておくと、発表の重みが変わる。「何億ドルを投じる」という数字だけでは、実現可能性が見えない。


まとめにかえて

今回の決算で残しておきたい論点はシンプルだ。

ソフトバンクGの投資利益1.8兆円のうち1.3兆円がIntelという事実は、「AI投資の勝者は誰か」という問いへの答えが複雑になっていることを示している。OpenAIが注目を集め、Armが設計で存在感を増す中で、「一度は苦境に陥った半導体メーカー」が最大の利益貢献をした。これは市場がAI産業のインフラ全体を再評価し始めた局面であることを示唆している。

純利益は前年比で減少し、NAVも市場変動に連動して大きく揺れる。投資会社としての宿命とはいえ、1.8兆円という投資利益の数字がそのまま経営体力に直結するわけではないことも頭に置いておきたい。

「ASI(人工超知能)時代のNo.1プラットフォーマー」を掲げるソフトバンクGの戦略に賛否はあるだろう。ただ、今の彼らの動きを「OpenAI傾斜」と単純化するのは、もはや実態に合わない。AIインフラのレイヤーを横断した投資ポートフォリオを構築している、というのが正確な見方だと思っている。


参考元: ソフトバンクG、投資利益1.8兆円を支えた「OpenAIではない"あの半導体メーカー"」の正体 – ITmedia ビジネスオンライン